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©Parlophone Records Ltd.

アレクサンドル・タローが2つの役を演じる映画「ボレロ」サウンドトラックが発売

 卓越した技術に美しい音色と多彩な表現力をあわせもつピアニストであるアレクサンドル・タロー。幅広いレパートリーを誇る彼だが、なかでもラヴェルを得意としており、昨年はラヴェルの2つのピアノ協奏曲とファリャの“スペインの庭の夜”を収めたディスクをリリースした。さらに4月公開予定(アンヌ・フォンテーヌ監督作品、日本の配給・公開は現在未詳)のラヴェルの伝記映画「ボレロ」に出演及び音楽も担当しており、サウンドトラックが3月15日にリリースされた。

ALEXANDRE THARAUD 『映画「ボレロ」オリジナル・サウンドトラック』 Warner Classics(2024)

 「主人公のラヴェルが演奏するシーンでの〈手〉、そして音楽評論家ピエール・ラロを演じています。彼はラヴェルに非常に辛くあたる存在で、〈ラヴェルの音楽にはエモーショナルなものがなく、冷たい。作曲家として大成することはありえない〉などとラヴェルを徹底的に批判するのです」

 ラヴェルを愛するピアニストでありながら、まったく正反対の立場の役を演じるというのは非常につらかったという。

 「ドビュッシーと比べて全くダメな作曲家であり、面白みがないなどと言い、その言葉にラヴェルが傷ついていくので、演じていて非常につらいものがありました。最終的には映画のタイトルにもなっている“ボレロ”の初演によってラヴェルの音楽を認めるようになるのですが、〈そんなことが君にできるとは思わなかった〉などと最後まで皮肉っぽいのです。私は非常に意地悪な役どころですが(笑)、ラヴェルを演じるラファエル・ペルソナさんをはじめ俳優の皆さんの演技が素晴らしく、映画は本当にいい仕上がりになっています。完成した作品を観たとき、クライマックスのシーンでは涙が出てきました」

 オペラ・コミックやラヴェルの家など、ラヴェルにまつわる様々な美しい場所で撮影は行われている。

 「特に印象的だったのは、ラヴェルの家での撮影です。マルグリット・ロンの前でラヴェルが演奏をするシーンがあるのですが、そこで私も彼の手として撮影をしました。ラヴェルの衣装を着て彼になりきり、ラヴェルが使っていた小さなピアノを弾くという不思議な体験ができたのはとても感慨深いものがありましたね」

 映画ではラヴェルの音楽が多数使用されており、今回タローは“亡き王女のためのパヴァーヌ”などを演奏し、自作曲も披露。映画の日本公開はまだ決まっていないが、サウンドトラックを聴きながら楽しみに待ちたい。