ラウドでゴリゴリな新シングルに込めた、前向きな本音!

 昨年は最新作『SuperBloom』の発表に幕張メッセ・イベントホールを含むツアーの開催と、麻倉もも、雨宮天との声優ユニット、TrySailとしての動きも堅調な夏川椎菜。一方のソロ作品では、音源のみならずMVやアートワークの制作まで関与するなど、自身の個性をフル投入して活動してきたなか、昨秋にはライヴを見据えたサード・アルバム『ケーブルサラダ』を発表。そしてステージ上のテンションをそのままパッケージした今回のニュー・シングル“シャドウボクサー”は、前作に輪をかけてフィジカル&ラウドな一枚となった。

夏川椎菜 『シャドウボクサー』 Music Ray'n(2024)

 「アルバムのすぐあとに出す曲ってツアー中に制作が始まったりするので、脳が完全にライヴ仕様になってるというか。今回のシングルは〈もっとゴリゴリな曲が欲しいなあ〉って思いながら作ってました(笑)」。

 表題曲の作曲を手掛けたのはUNISON SQUARE GARDENの田淵智也。とてつもない言葉数が詰め込まれたリズミカルな旋律と爆発的に弾けるサビとの対比が爽快なカタルシスを呼ぶ、まさに田淵印の一曲だ。

 「曲をいただいて思ったのは、〈これは挑戦状だな〉っていうこと。言葉が詰まっているのもそうですし、単純にメロ運びも難しいので、これまで田淵さんとタッグした2曲とは違う角度からテクニカルなことを求められつつ、でもハートがないと成立しない楽曲で。しかも今回は私が作詞をするので、〈これをライヴでやれるか?〉〈この曲の歌詞、お前に書けるのか?〉って挑戦状を受け取ったみたいな、田淵さんとの戦いみたいな感じ(笑)になりましたね。作詞に関しては、〈ボクシング〉とか〈パンチ〉とか、おっ!となるパンチラインは早めに見つかったんですけど、文字量が通常の2~3倍あるし、早口言葉だし、そのうえでリズムに乗らなきゃいけないしで、言葉のパズルにはけっこう時間がかかりました」。

 鮮烈なポップセンスで日々のつまずきやモヤモヤを解消してくれる夏川の詞世界。そこには彼女のこんな内面が映されている。

 「私自身がそこまで明るくないっていうのがまず前提にあるんです。〈根は明るくない奴が明るく生きようとしている〉って場面が私の人生には割とあって、“シャドウボクサー”もそうですけど、自分の〈最低限なムーブをとって効率厨をキメている〉ところとか、人が〈アンモラルなブームにのっかって〉イイネを送り合ってる感じとかには思うところがあるけど、声を大にして言うことはできないみたいな。でも、歌の世界だったら〈そんなもんパンチだ!〉ってちょっと強い言葉で言える。〈夏川みたいな人でも前を向こうとしている〉と伝えることで、〈じゃあ自分もがんばってみるか〉みたいに思ってもらえたらいいなと考えながら詞を書いてますね」。

 そしてもう一曲は、川崎智哉の作・編曲による“労働奉音”。重くグラマラスなグルーヴが聴き手を妖しく挑発する。

 「『ケーブルモンスター』のツアーのとき、開演前のBGMでロブ・ゾンビの“Dragula”を流してたんですけど、会場のどこからともなくクラップが始まって。誰も煽ってないのにみんなが4つ打ちでノッている、みたいな状況が自然発生したことがすごく気持ち良くて、でも、それが自分の曲じゃなかったところにちょっとモヤモヤが残り、という経験をきっかけに作っていただいたのが“労働奉音”です。“Dragula”は悪魔が歌ってるみたいな(笑)メタルですけど、それを夏川がやるとこうなりますよ、って感じですね。歌詞は、私のバック・バンドのヒヨコ労働組合が労働している=音に奉公している様子を書けたらいいなと思って。普段の私はウジウジ寄りだから〈やってやるぜ!〉みたいな威勢のいいことは言えないんですけど、ライヴのときは後ろにゴリゴリの演奏をするバック・バンドがいて、目の前にはファンの方がいてくれる。そうすると〈いまでしょ、やるなら!〉みたいな気持ちになるので、歌詞にはそういうちょっと強気なところも表れてるかなって思います」。

 プレイ中のハイヴォルテージな熱気が伝わる言葉はもちろん、ヒ労組の演奏と拮抗するクール&パワフルな夏川の歌唱もまた印象的だ。

 「ライヴのラストのほうで体力が削れて、火事場の馬鹿力的に出てくるアドレナリンが混じったような声ってあるじゃないですか。それを求められてる曲だなと思ったので再現できるかちょっと不安だったんですけど、こういう曲って陶酔すればするほど強いというか、この世界観に浸ってる姿をかっこいいと思えるほど声が出る。レコーディングは楽しくて仕方なかったです」。

 こうして完成したライヴ映え必至の2曲。今後はコロナ禍に当初の構想を変更して行ったZeppツアーの〈リベンジライヴ〉も控えているが……。

 「〈リベンジライヴ〉は衣装もメンバーもセトリも2020年のときと同じものでやりたいんですけど、“シャドウボクサー”は追加するかも? そこじゃなくてもまたどこかでツアーをやりたいって気持ちがあるので、いや絶対やるので! それまで待っていてほしいです」。

夏川椎菜が参加した2024年のシングル『THE IDOLM@STER MILLION THE@TER VARIETY 05』(ランティス)

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7月24日にリリースされるUNISON SQUARE GARDENのベスト盤『SUB MACHINE, BEST MACHINE』(トイズファクトリー)