大好評なニューシングル“春風烈歌”を携えたツアーも、残すところ東京での最終公演のみ。RYUTistの3人は、最後の準備に勤しんでいるようです。そんなRYUTistの宇野友恵さんが本について綴る連載が、この〈RYUTist宇野友恵の「好き」よファルセットで届け!〉。今回は、若松英輔さんのエッセイ集「悲しみの秘義」を紹介してくれました。 *Mikiki編集部

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春の陽気に包まれる部屋で本を読み、ときどき猫をなでる。
なんて穏やかな休日でしょう。

3月末から、新曲“春風烈歌”のリリースイベントで、新潟、東京、仙台を巡り、たくさんの方に出会うことができました。

前日、リリイベ最終日の仙台に行って帰ってきたばかり。
ありがたきアイドルらしい日々も一区切りがついて次に始まるツアー前の小休憩です。

珍しくずっと寝て過ごすのはもったいないと感じられたので、とりあえず眠たい目をこすって、むくりと起きてみる。布団にもぐって一緒に寝ていた猫も大きなあくびをしてついてきます。

朝ごはんを食べて、掃除機をかけて、新潟ではちょうど桜が満開の時期を迎えましたが、外出するにはあまり気分が乗らず。
本棚を眺めてふと目にとまった本は若松英輔さんの「悲しみの秘義」でした。

若松英輔 『悲しみの秘義』 文藝春秋(2019)

 

誤解のないように前置きしておくと、今、何か悲しいことがあるわけではありません。
ただ呼ばれているような気がして、本の背に人差し指をかけて手にとってみる。
初めて読んだのはいつだっただろうか。ジャケ買いでした。
紙の手触りの良さに本を開かずにはいられなくなって、窓を開けて春の風と音を感じながら気楽に再読し始めました。

思いがけず、すぐに涙がこぼれました。
膝に乗って眠ろうとしていた猫が私をチラリとみる。
美しい。文章がとても美しい。圧倒的な美しさ。ふえーん。
初めて読んだときもこの美しさに感激したことを思い出しました。

 

著者の若松英輔さんは同じ新潟県出身の批評家です。
このエッセイは、詩人や小説家など作家たちの言葉を取り上げながら、人間の感情や言葉についてゆっくりと紐解いていきます。

以前読んだときに印象深く残ったフレーズは〈悲しみの花は、けっして枯れない。それを潤すのは私たちの心を流れる涙だからだ。生きるとは、自らの心のなかに一輪の悲しみの花を育てることなのかもしれない。〉でした。

どの文章を読んでも腑に落ちてしまう。
特になんでもない休日になるはずが、一気に充実したようにも錯覚してきます。

 

リリイベでさまざまな土地に行きました。当然のことだけど、私にとっての非日常的な場所で沢山の人が日常を送っていて、それがおもしろく、世界の広さはこんなもんじゃないんだよなと考えると、もっといろんな場所で過ごしてみたいと思いました。

家を飛び出せばいろんな人がいるから、時には疲れてしまうし、コミュ力もないけど、私は人が好きです。
服装や一緒にいる人や何をしているかでその人の生活を想像することはできる。想像するだけならタダ。人間観察が好きなのかもしれません。

 

〈見えないことの確かさ〉というタイトルの章に〈美術館に行く。不意に何かに打たれたような衝撃を受けて、その絵の前で呆然と立ち尽くす。公園で、花を咲かせた一本の樹木に魅せられることもあるかもしれない。街で耳にする音楽に、はっとさせられることもある。だが、ほかの人は何事もなかったように傍らを通り過ぎてゆく。人生を変えるような大きな出来事が起こっていても、周囲はそれに気が付かない。〉というフレーズがあります。

たくさんの人がどこかでその人にとっての小さな気づきも大きな出来事も経験して、今現在にいるということを想像すると、人間という大きな括りのなかで自分も一緒だなと安心します。
みんなよく毎日人間やってるよ。えらい。賞賛。拍手。

 

だがしかし、おい、ちびすけ、お前と一緒にすんなという方々もいらっしゃるのだと思います。同じ人間はいませんから。

私はしょうもないちびすけかもしれませんが、この本は全員に読んでいただきたい。解説を担当されている俵万智さんも〈「一生モノ」と思える本に出会った〉と、おすすめされていますから、確実です。

 

そろそろご飯の時間だよと猫がニャアと鳴く。
カリカリのご飯をあげて、自分は誕生日プレゼントでいただいた〈よろこび〉という名のお茶を飲んで、外に出る。
月明かりに照らされる夜桜がとても綺麗で、良い休日になりました。

〈RYUTist宇野友恵の「好き」よファルセットで届け!〉第33回目は若松英輔さんの「悲しみの秘義」をご紹介しました。