(左から)芳賀亘、島紀史

CONCERTO MOONの新作アルバム『BACK BEYOND TIME』が2024年5月1日にようやく発売を迎えた。オリジナルフルアルバムとしては『RAIN FIRE』(2020年)以来約3年半ぶりということになるが、この長い制作期間はバンドの首謀者である島紀史(ギター)にとって、模索と試行の連続だったようだ。そして結果、その甲斐あって、このバンドらしさを少しも損なうことなく、現在なりの進化/深化の形が示されている。今回はその島と、前作当時から着実な飛躍をみせているボーカリスト、芳賀亘の2人に話を聞いた。

CONCERTO MOON 『BACK BEYOND TIME』 Walküre(2024)

 

旧来のアルバムは今回が最後になるんじゃないかな

――リスナーに対しては、とにかく「お待たせしました!」という感じですよね。

島紀史「そうですね。今回、僕自身のこだわりが強く出た部分があって。まず、求められる作品フォーマットというのが時代と共に変わってきてるじゃないですか。従来の感覚で言えば、アルバム1枚分、10曲前後を録るためのマテリアルを揃えて、それをメンバーと一緒に煮詰めて形にしていくというのが当たり前の制作のあり方だった。

それに対して今の時代、先行で配信リリースをして、それを重ねていきながら世の反応なども見つつ、新たなものを加えるなどしてアルバムにしていく、というやり方が当たり前になってきていて、その傾向がこの先も強まっていきそうな気配がある。そこで、もしかすると自分がこれまでやってきた旧来のアルバム制作のやり方で取り組むのは今回が最後になるんじゃないかな、と考えたんです。もちろんこれはネガティブな意味じゃなく、やっぱり今を生きるバンドとしては、今の新しいやり方というのにも対応していかないといけないだろうということなんですけど」

――アルバムという形態、単位の捉え方が今後さらに変わっていくのかもしれない。ただ、ここで無理やり方法を変えてしまうのではなく、これまで通りのやり方でとことんこだわり抜いて作ろう、ということになったわけですか?

「そうですね。だからもうあくまで自分らしく、自分が今までやってきたものを最新の形でまとめたものにしたいな、と。そう強く思い……込み過ぎてんだと思うんです。だから当初は一昨年の夏あたりにドラム録りをする前提で進めていて、なんとなく曲の数も揃いつつあったんですけど、そういった想いが強過ぎたためか、できてきた曲についても過去の自分の焼き直しに陥ってるんじゃないかと思えてしまって。これぞ今の自分たちの楽曲だ、というふうには思えなかったので、まずはドラム録りを10月に延期して、その後またその予定をバラして、結局、その年の年末いっぱいぐらいまで悩み続けていたんです。

そして2023年の正月明けぐらいのタイミングには、今の自分として手応えを感じられる曲がようやく揃ってきていたのでレコーディングを始めたんですけど、ドラムを録って、バッキングのギター、ベース、リードギターを録って、キーボード奏者(三宅亮)は関西在住なので音源をやり取りしながらラフなものを被せてもらって……去年の春ぐらいにはその状態のものができてたんです。

で、うちの場合、作曲段階では僕が鼻歌レベルの歌メロを作っていくんですけど、それを芳賀に歌ってもらうために具体化していく中で、ふたたび〈これは本当に新しいのか?〉という自問が始まって、そこから改めて歌のメロディを見つめ直す作業が始まって。だから芳賀には当初、夏にはボーカル録りをするから、なんてことを言っていたんですけど、その時点でもまだ納得がいかず。もちろんだらだらと過ごしてたわけじゃないし、歌のメロディとかも何バージョンも作ってたんですけどね。今回、自分の中で、ドラマティックな要素のない曲はこのアルバムには入れたくない、と思っていたんですけど、さっきも言ったようにそういった想いが強過ぎたんでしょうね。

結局のところ、夏に歌録りをするはずだったのに秋が来て、冬が来て……。ただ、いつまでもそんな調子でやっているとキリがないから年が明けたらボーカルを録ろうということに決めて。結果的にはギリギリでしたけどね。最後にボーカル録りをした曲の歌のメロディを渡したのは、すでにボーカル録りが始まってからのことでしたし」

芳賀亘「そうでしたね。今年の1月中旬頃から2月下旬にかけての頃のことでした」

「これはメンバーにも言ったことですけど、その頃にはもう〈ここまで悩みに悩んでやってきたけど、ここからはもう一気に行くぞ!〉という感じになってましたね。だからボーカルを録りながらミックスに関するエンジニアとのやり取りも同時進行で、という感じでした」

――最後のボーカル録りを終えてから2ヵ月と少々で世に出ることになったわけですね。基礎工事が済んでしまえば建物ができるのは早い。ただ、とにかく今回は悩むプロセスが必要だったということなんですね?

「そうですね。だからホントにメンバーには感謝してます。たとえばドラムの河塚(篤史)は〈いつになったら俺が録ったドラムが作品になるんだろう〉?と思っていただろうし」