交響曲全集を70年代後半から80年代前半にかけて完成させたハイティンクの貴重なショスタコーヴィチ・ライヴ。バイエルン放送響の機動力を得て、2006年、当時77歳、衰えぬ心気に満ち、じっくりと腰を据えて正面から作品に対峙した内奥からの音楽だ。ショスタコーヴィチが大戦中に作曲した〈戦争交響曲〉としての本質を蔵する第8番を、現在においてなおアクチュアリティを持ち続ける作品であるかのようにハイティンクは取り上げてきた。異なる録音条件だった82年全集録音と比しても、ここに聴く第8番の相貌には、純音楽的アプローチを旨としたハイティンクの実演でにじませる情念が様々に濃淡を変えて見える。